花札が溜め込んだ情報――青白い光が街に降り注ぐ。
――これでこの国の寿命は伸びたのか?
ギリギリの戦いだった。零に消滅する術を教えたいけすかない奴だけじゃなく、カミフダを生み出した存在とまで戦うことになり、一時は白ごと花札を取り込まれてもう駄目かと思ったが、皆の力を借りてどうにか生還することができた。
気付くと俺たちは鴉羽神社の境内にいた。この場所で俺たちの帰りを待っていた神使たちや、羽鳥家の面々、そして新宿駅地下で分かれた橙治や義王の姿もある。しかし。
「っ……零!!」
……零が、いない。零と白がいない。
「返事をしろ!! 零、いるんだろう!?」
……俺はまた間違えたのか? あんなにもしっかりと手を繋いでいたのに。また手を離してしまったのか?
「ちくしょうっ……なんでだよ……こんな、あいつらを犠牲にするために必死こいてたわけじゃねえぞ!」
「千馗……」
俺の取り乱し様に、燈治が遠慮がちに声をかけてくる。
「またこれか……っ。俺には大事なものひとつ、守れないのか……っ!?」
「ね、千馗君。大丈夫だよ。みんなで、呼んでみよう?」
うなだれる俺の肩に弥紀がそっと手をそえる。
「……」
「もうほとんど残ってないけど……この痣がね、なんだかあったかい感じがするの。これで、わたしたちはまだ繋がってるんだよ、きっと」
「そうだよ! ほら、なんだかんだいって雉明クンも方向音痴なトコあったし、きっとどこかで迷ってるだけだよ。みんなで呼んだらきっと聞こえるよ!」
まったく。女は強いって本当だな。弥紀といちるに励まされると、そんな気がしてくるから不思議だ。俺はまだ、あきらめなくていいのか……?
「ここだよ!」
「早く来い!」
「みんな待ってるよ!」
「雉明くん、白ちゃん、こっちだよ!」
「白黒コンビ、とっとと戻って来やがれ!」
皆が空に向かって手を伸ばし、奴らに呼びかける。降り続ける青白い光が段々と数を減らしていっても、呼びかけるのをやめる者はいない。
ああ、なんて、なんて。俺は一人じゃないんだよな。足りない所を補ってくれる、支えてくれる仲間たちがいたから、頑張って来れた。
零、お前にももっと教えたいよ。
やきそばパン以外にもおいしいものが山程あるってことも。白が好きな駄菓子だって、お前ほとんど食べたことないんだろ?
お前のことを仲間だって思ってる奴らがたくさんいるってことも、お前まだ自分はただの札のつもりで、実はよくわかってないんだろ?
それに何より、俺の気持ちを伝えたいよ。俺は、お前がいなきゃ苦しいよ。お前にどうしようもないくらい惚れてるんだ。ちゃんと、告白させろよ。
「零!!」
……笑いたくば、笑え。最後の青白い光が地面に吸い込まれた時、ようやく呼び声に答えて、ふわり、と空間に浮かび上がって現れた二人を、俺は天使だと思った。
「まったく、騒々しいものたちよの」
「白ちゃん!」
「うぐ……っ。こら、朝子、苦しいではないか!」
真っ先に白に抱きついた朝子先生に続き、女子が歓声をあげて駆け寄る。
「この馬鹿っ。心配させやがって」
「遅くなってすまない。みんなの呼ぶ声が聞こえたから、戻って来られた。ありがとう」
零も他の奴らに声をかけられて、微笑んでいる。
確かに二人は、そこにいる。
「まったくお前らは世話がやける。……おい、千馗?」
燈治に呼ばれた時、俺は、皆から一歩離れて無様にただ突っ立っていた。
零が……俺の前に歩いてくる。
「千馗?」
「……」
「千馗……泣いているのか?」
「泣いて悪いか!」
「いや……その、すま…」
「簡単に謝るな」
情けない。こんな大事な時に、涙が止まらない。
「……それでも、謝りたい。心配かけてすまない」
「だったらもう二度とするな。俺から、二度と離れるな」
わかってるんだか……いや、わかってないんだろうな。零は俺の涙を指先でぬぐってくれ、今まで見たことがないほど晴れやかな笑顔で頷いた。
「ああ。おれは、これからもずっと、千馗と一緒に生きていきたい」
完敗だ。
これから先、素直すぎるこいつにどれだけやきもきさせられることか。まったく、大変な奴に惚れてしまった。
けど、後悔はない。
一緒に幸せになろうな、零。
【了】
