そのこころの行く末は

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【七】

 落ち着いた頃、零はかしこまった様子で、俺に話があると言った。

「まだ、謝らなければいけないことがある。おれは、あれほどの力を生み出す源が何なのか、知りたかった。そしてできることなら、おれもその力を手に入れたかった。だから、あの札に踏み込みすぎた」

 零が今回の任務に積極的だった理由は、これか。俺と共に闘うための力が欲しくて……。

「俺だって、もっと力が欲しいと思う時がある」

「千馗は、とても強い。おれにはまぶしいほどに。でもきみの強さは、身体的な強さ以上に、こころの強さによるところが大きい。おれもそうありたいと思う。……危険な目に合わせてしまって、本当にすまなかった。ゆるしてもらえるだろうか」

「もちろん」

「……ありがとう。おれはいつもきみに救われている……」

 馬鹿だな。救われているのは、俺の方だ。零の信頼に応えたいからこそ、強く在ろうと思えるのだから。

「――あの札が持つ強大な力は、とても複雑な感情から生まれるものだった。ひとを飲み込み、埋め尽くそうとするあの感情が……苦しくなるだけだったあれが恋だと知って、おれは怖くなった」

「怖い?」

「あれが恋だとしたら……おれがしている恋も、やがて、あんな風に恐ろしいものに変わってしまうのだろうか、と。それで混乱するあまり、あの感情に飲み込まれて、自分を見失ってしまった」

「皆が皆、ああなるわけじゃ……」

 言いかけて、固まった。

 おおおおお前今――自分がしてる恋って言ったか!?

 動揺している俺に気付かず、零は話し続ける。

「そうだな。ああ、千馗にまだ話していなかった。……未来を信じられるようになって、おれは欲ばりになったのだと思う。だが、多くを望んではいけないと、口にしないようにしていた。一昨日、鍵と話すまでは、それでいいと思っていた」

 鍵さんと話した?

 そうか。油揚げがどうとか言っていたのは、こちらの話だったのか。

「……それで鍵さんはなんて……?」

「もっとそばにいたいと、ふれていたいと思うのは、そう思う相手が誰かひとりならば自然なことだ、と。他のひとと同じことをしているのに特別嬉しいと感じるのも、そして、相手にも同じように特別だと感じてほしいと思うのも……恋をしているなら当然で、なにもおかしいことではないのだと、鍵が教えてくれた」

 昨夜のようにつやっぽい仕草ですり寄られるより、今、目の前でかすかな微笑みを浮かべながら恋を語る零の姿を見ている方が、ずっと胸が高鳴る。

 俺を生かすために死ぬつもりだった彼が、今、彼自身の望みを口にしている。

 もっと、人と一緒に生きていたいのだと言っている。

 彼の未来を選びとれた自分を、誇りに思った。

「この恋が苦しいばかりになるかは、おれ次第。だから、無理をして捨てなくてもいいんだろう?」

「ああ、そうだ」

「……良かった。今ならば言うことができる」

 零がそっと手を伸ばし、俺の手をつかんだ。引き寄せられ、拳一つ分ほどの距離で、見つめ合う格好になる。

「……零?」

「千馗。おれはきみに、恋をしている」

 息が止まった。

 嬉しさのあまり、言葉が出て来ない。

 間近で見る零のまなざしに、これまで感じることがなかった熱が、陽炎のように揺れている。

 きっと、零も同じ熱を俺の中に見つけたはずだ。零は目を細め、重なりあった手に力をこめた。

「きみは……?」

 答えの代わりに、一瞬、唇と唇を触れ合わせる。

 零は驚きに目を見開き、次いで、微笑みを浮かべると俺の真似をして、口づけてくれる。さきほどよりも少し長く、触れ合う。

 ただ一カ所を重ね合うだけの行為を、これほど特別に感じる理由は一つしかない。

「……千馗は、他のひとともこんなことを……?」

「馬鹿なことを言うな。零だけだ」

「そうしてほしい。……おれはきっとこれから、もっと欲ばりになる」

「構わない。もっと多くを望んで欲しい。――零、好きだよ」

 

 あの札でしか、想いを残せなかった二人。

 相手の言葉をありのままに受け取れば良かったのに、それができなかったあいつらが哀れだ。

 

 だから俺は、いつだって後悔しないように、好きだと、大切だと伝えることを忘れない。

 そんな言葉や態度が、二人の想いを繋いでくれるのだから。

【了】

 

 

  ↓おまけ↓

「やはり……鍵に抱擁されても、千馗にされるように、こんな幸せな気持ちにはならなかった……」

「……」

 鍵さん……それは、やりすぎだ……。

 

>>あとがき